家を出た娘たち

 ドメスティックバイオレンス(DV)の子供への影響について、前回に続いて紹介しましょう。

 事業を営む男性(45)は、妻(43)、長女(17)、次女(16)の4人家族。外から見れば裕福に見える家庭でしたが、彼は「自分が家族を食べさせてやっている」という強い思いがありました。

 彼の考えが家庭のすべての指針。どんな小さいことでも、彼に相談せずには決められません。

 妻は彼が帰宅すると玄関までお出迎えをして、すぐにお風呂の準備をします。上がったら冷えたビールと冷えたグラスとおつまみを持っていき、飲んでいる間に、おかずを出し始めます。飲みながらの2時間の夕食が、彼の至福の時だったようです。

 しかしそこに、会話があってはいけないのです。妻も娘たちも黙って父の姿を見ながら食べて、父に聞かれたことだけに答えます。それが彼の決めたルールだから。

 娘たちは思春期に入り「こんな生活はおかしい」と父親に文句を言いましたが、彼は「食わせてもらっている分際で、文句を言うな。気に入らなければ出て行け!」と言って、娘を引きずり回し、殴ったそうです。もちろん妻にも「おまえの育て方が悪い」と言い、殴りました。

 何が問題なのか彼が気付かぬまま、女3人は次女の大学入学を機に家をでました。今は別居中です。

 娘たちは当時を振り返り「とても苦しくて、拒食症にもなりました。学校に行っている間にお母さんがいなくなったらどうしよう、と常に考えていました」と話してくれました。そしてこう言いました。「父と離れて暮らせて、初めて笑ってごはんが食べられました。今、幸せです」

 

☆事例は事実を基に再構成しています。

クロッケ代表・黒瀬茂子(広島市)