体験の連鎖

 前回、「優秀でなければならない」という「男という鎧」で身動きできなくなっている男性を紹介しました。子育てが「分からない」と言えずに、妻と息子に暴言を浴びせていました。

 妻が実家に相談したことを知り、彼は加害者教育プログラムに参加。同じくプログラムに通う男性グループで体験を話すうち、彼はやっと打ち明けました。

 「子どもとどう接していいか・・・。遊び方が分からないんです。僕自身、親に遊んでもらった記憶もないし、褒めてもらったこともない。とにかく、勉強ができればいいとそれだけで」

 そうです。自分自身が体験していないことは、なかなかできません。逆に、体験したことを無意識にしてしまうのです。クロッケに通う男性の多くは、子ども時代に「嫌だ!」と感じたことをしてしまっています。体験の連鎖です。

 どうすればいいのでしょう。身近なモデルを探すのも一案です。

 彼は「上司の家庭が理想」と言うので、まねをしてみることを勧めました。子どもにどんな声掛けをするのか、何をして遊ぶのか、どんなときに叱るのか・・・。

 妻に聞くのはハードルが高くても、自分が認める第三者の声なら心に届くことがあるのです。

 「男という鎧」を身に付けている男性は、鎧を脱いだ自分に自信がないのかもしれません。相手を認めるのが悔しく、嫌であるケースが大半です。「なんでできないんだ」と、相手の悪い所ばかりを指摘しがちです。

 上司と話をした彼は、褒めることの意味を考え始めたようです。「よくできたね」「頑張ったね」と相手を肯定する言葉で子どもと接する試みに挑戦しています。

 

☆事例は事実を基に再構成しています。

クロッケ代表・黒瀬茂子(広島市)