男という鎧

 クロッケを訪れる男性たちは「男という鎧」を着込み、身動きできなくなっている人も少なくありません。38歳の研究員の彼もそうでした。

 「妻には子どものしつけができないんです。だから僕がちゃんと育児書を見てしつけようとしているのに、妻が怒りだす。僕のどこが悪いですか」

 妻は34歳、長男10歳、次男6歳の4人家族。彼は家族を怒ってばかりで、暴言を吐くことも少なくありませんでした。

 「息子たちは落ち着きはないし、勉強もできない。妻がしっかり怒らないのがいけないんです」

 しかし、妻の言い分は異なっていました。

 「夫は子供のことを何も分かろうとしません。育児書を読んで分かった気になって、怒り飛ばすだけなんです」

 妻は、彼と同じ職場の研究員でしたが、結婚を機に彼の希望で退職。「仕事も無理やり辞めさせられたのに『専業主婦なのに子育てもできない』なんて言われて」と腹立たしそうに話します。

 彼は幼いころから親に「男は勉強ができればいい。感情は外に出すな」と強く言われて育ち、成績は優秀でした。でも人間関係をつくることは苦手で、友達もあまりつくらないまま、研究者になりました。

 ずっと優秀だっただけに、「知らない」「分からない」を言うことは「恥」で「相手に弱みを見せることになる」と思い込んでいました。子どもの育て方も「分からない」と言えず、妻と話し合うことさえできなかったのです。

 男だから優秀じゃなくてはいけない。そんな「鎧」を着ていませんか。彼にどんなプログラムを提供したのか、続きは次回に。

 

☆事例は事実を基に再構成しています。

クロッケ代表・黒瀬茂子(広島市)