福山市の民間団体クロッケが支援プログラム

DV加害者が変わろう

DV加害者が変わろう
 配偶者や恋人に暴力を振るったり、精神的な苦痛をあたえたりするドメスティックバイオレンス(DV)。その加害者に目を向けた支援に、広島県福山市の民間団体クロッケが取り組んでいる。面談やグループワークを通じて、支配的な考え方を改め、相手を思いやる気持ちを持ってもらう。目的は被害者や子供を守ることだ。

「弱さ 力で隠していた」30代男性のケース
 竹原市に住む30代の会社員の男性は、クロッケに通って1年余りになる。「また妻にイライラし怒鳴ってしまった」。黒瀬茂子代表(51)との面談で打ち明ける。「話を最後まで聞くように意識してるんだけど!」と男性。テキストを広げ、「話し合いの終わりは自分が決める」「君には無理だから自分が正しい選択をしてあげる」などDVにつながる考え方自分を比べ、対策を考える
 一昨年末、妻は長男(6)を連れて実家に帰ってしまった。長男の誕生とほぼ同時に家を買ったが、生活費が膨らむ一方、給料は上がらない。「どうするの」と聞く妻。責められているようで腹が立った。怒鳴りつけ、暴力で黙らせた。
 妻が出て行き、「自分は異常なのか」と悩む中インターネットでクロッケの加害者支援プログラムを知った。
 黒瀬代表は男性が「男のプライド」と、その象徴としての「家」に固執していると感じた。面談や加害者2~4人とのグループワークで考えてもらった。なぜ妻に給料のことを言われたら腹が立つのか。家に固執するのか。夫婦間の平等って何なのか。男性は家を売り払った。
 半年がたったころ、男性は「強い自分を守りたくて、弱さや不安を力で隠していた」と気付き始めた。他の加害者の話を聞くことで自分の行為を客観的にとらえ、「ひどいことをした」と反省した。妻は男性がクロッケに通って変わることに期待し、戻ってきた。男性は今「平穏な家庭を築く」と誓う。

支配欲や相手の傷を自覚 受講すると
 DVの防止には被害者の早期保護と同時に、加害者が暴力を自覚し、価値観を改めることが求められる。その一つの方法が加害者プログラムだ。加害者に自身の支配欲や性別役割の固定観念、相手の傷を自覚させる。原則週1回火曜。
 海外では米国カリフォルニアなど、裁判所が加害者にプログラム受講を命ずるところもある。日本には公的制度はなく、民間が取り組んでいる。東京都の民間団体アウェアが先駆者。2002年、米国で学んだ山口のり子代表が始めた。プログラム実践者も養成。約10人が神奈川や徳島などで活躍している。黒瀬代表もその一人。10年11月から活動を始めた。
 クロッケには現在、20~50代の8人が通い、1人が電話でプログラムを受けている。妻子と今も暮らすのは男性1人だけだ。ほかは離婚か別居中。「同じ間違いを繰り返したくない」と通う。
 加害者には父親が支配的な家庭で育った人や他人の大切なものを分け合った経験が少ない人、自尊心が低い人が多いという。プログラムは、コンプレックスや弱さを素直に語る場にもなっている。黒瀬代表は「共に反省し努力する仲間がいると感じることに意味がある」と強調する。
 内閣府が11年に20歳以上の女性1751人に行った調査では、夫に暴行や精神的嫌がらせを受けた人は32.9%に上り、20人に1人は命の危険を感じたことがあるという。「DVを防ぐため、加害者が変わることを手助けする方法があることを広く知ってほしい」。黒瀬代表は願っている。



DV被害者(夫の場合)の意識チェック

以下の考えはDVにつながります。チェックしながら妻や彼女に対する態度を考えてみてください。

◻︎妻に教えたり、しつけするための暴力は本当の暴力でない

◻︎腕をつかんだり体を押したりすることは誰でもやっている

◻︎男性には扶養している家族をコントロールする権利がある

◻︎おとしめたり、ばかにしたり、怒鳴るのは暴力ではない

◻︎夫婦は考えも気持ちも同じでなければならない