変身はしない

 さて、ドメスティックバイオレンス(DV)の加害者の男性は、教育プログラムを受けて、妻の理想とする夫に変わるのでしょうか。

 知っておいていただきたいのは、白馬の王子様に「変身」することはないということです。ただ変身はしませんが、「変化」はする可能性があります。それも時間をかけながら、少しずつ、少しずつ・・・。

 ある会社員の男性は、最初の数ヶ月はクロッケを訪れているだけでした。自分の体験も話そうとしません。他のDVの事例について意見を求めても「このくらいみんなしていますよ」「DVだなんて大げさですよ」と言っていました。

 でも、他の参加者の意見を聞くうち、少し考え始めたようでした。そして、DVの事例を紹介し「あなたの娘がこの男性と結婚したらどうですか」と問いかけると表情が変わり「それは困ります」と。

 DV加害者の男性たちに他のDV事例を紹介しても、なかなか自分と重ね合わせることができません。でも不思議と「娘さんがこんなことをされたら」と投げ掛けると、はっとする人が多いのです。

 クロッケに通って2年半。彼は「DVが何か理解するのに時間がかかりました。妻は本当に嫌だと思っていたんですね」と振り返ります。今は妻に対して、「~できないじゃないか」「この料理まずいよ」と責めるような発言を控えるよう心掛けています。

 生まれてから今まで、何十年もかけて培った価値観を見つめ直す作業は、簡単なことではありません。時間がかかります。

 被害者の妻の皆さんには、こう伝えています。「やり直したいと決心したなら、夫の小さな変化を大切にしてください」と。

☆事例は事実を基に再構成しています。

クロッケ代表・黒瀬茂子(広島市)